僕は、五(ぐ)に張った。

思った事を書いてるだけ

往々にして断酒への想い

先日、僕は博打で大金を溶かした。それはこれまで博打でコツコツと貯蓄してきたいわゆる「ギャンブル基金」というやつ。博打で得たゼニを博打で溶かすという至極当たり前の流れだからこそ納得はしている。

問題はその後に起こった。

スコスコにやられて帰宅し、風呂に入ってしょっぱいビールをやりながら映画を観ていた。いや、厳密に言えばその映画が始まるまでの他作品の予告しか観ていない。

あれだ、一昔前のDVDによくある本編前に垂れ流されるあれ。僕はそれをボンヤリと眺めながらふとこう思った。

(あのゼニで違うことやっとけゃよかった)と。

それはひた隠しにしてきた本音中の本音。押し寄せた後悔、悲痛な想い、気付かないうちに刻まれた傷。僕はテレビを消し立ち上がった。

飲みに行こう。

たしかに泡ゼニはもうない。財布にあるのは僕が汗水垂らして得た正真正銘の生きたカネ。いや、生きるためのカネと言ったほうがいいのかもしれない。

時に、博打で得たゼニで飲みに行くのはいいのが、働いて、つまり仕事して稼いだカネで飲みにいくのは愚か、とくにキャバクラは。という信念がある。

だから、飲みに行こうと思ったものの、だいぶ躊躇した。そして、僕は愚を犯す。こともあろうに、どうしようかという相談をするために懇意のキャバ嬢へと電話をしてしまった。

そんなの、もちろんすぐに来いとなる。

内心わかってはいたこうなることは。ただ、人間なんてそんなものだ。迷いが生まれる時、常に気持ちがいいほうに進みたくなる。「やる」か「やらない」だったら、とりあえず「やりたい」。

結局、そのキャバクラには3セットいた。4万いくらだった。楽しかったかどうかは覚えていない。またヘベレケに酔っ払ってしまった。

どういう経緯かわからないが、アフターが刺さった。つまりその店を出たあと、そのキャバ嬢とどこか行きましょう的な。通った者にのみ与えられるご褒美。夢叶う

僕は近くのコンビニ前で弁当とレモンチューハイをやりながら彼女を待った。余談だがその弁当とかを買う時、女性の店員さんがこう言ってきた。

「お兄さん、先週も来てましたよね?」

「ええ、たぶんそうです」

「だいぶベロベロだったんで覚えています笑」

「お恥ずかしい、ちなみに今日もベロベロです。こんど飲みにいきませんか?」

その問いに対して彼女がどう返したのかは覚えていない。思い返してみれば、顔から火が出るくらい恥ずかしいという事実だけだ。

とりあえず当分はそのコンビニへは行くまいと誓った。

夜中の2時頃になった。まだキャバ嬢はこない。いよいよ待ちくたびれた僕は電話をした。

ミーティングが長引いてあと30分くらいかかると言われた。

このパターン、アフターを望んでいるのは僕だけしかいないやつだ。

おそらく、時間を間延びさせ来たとしてもガルバ1セットでお疲れとなるだろう。僕も長年、夜の世界で生きている。だからこそ、見えてはいけない事まで見えてしまう。

(今日は帰ろう…)

その事をキャバ嬢へ告げれば、なんとなく声のトーンがワンオクターブ上がったような気がした。

「じゃあ、次は絶対、きっと!」

彼女はそんな風味で電話を切った。そして、僕は自宅まで歩いた。道中、コンビニで500のレモンハイボールを買ってそれを飲みながら。

静寂な住宅街を歩いていると、なんだか妙な孤独感に苛まれた。変態紳士クラブの「YOKAZE」が脳内再生された。

僕は何をやっているんだろう。

ずっとそんなことを考えていた。

帰宅して、スエットに着替え、すぐに布団へ飛び込んだ。どことなく、彼女の匂いがした。甘ったらしい香水と酒とメスの匂い。込み上げてくる焦燥感と吐き気を飲み込みながら、僕の意識は落ちた。

目を覚ました時、外は明るかった。

たぶん、昼前くらいだろう、そう思いつつ布団から起き上がりキッチンで水を飲んでトイレで小便をした。

そして、居間で一服。自身の行動、いや、自分そのものに、ものすごい嫌悪感が生じた。

なぜ昨日キャバクラへ行った、またヘベレケな醜態を晒してしまった、何を話した、そんなんだからアフター断られるんだよ、ってかカネないくせになにやってんだよ。

死にたい。

財布を開けば二千円。それがさらに鬱々しさを加速させていく。

恐る恐るスマホを開いた。彼女から連絡はない。

しかしTwitterの通知がいっぱい来ていた。ああ、あの時だ、なんか僕呟いてるし。日常世界だけではなくネットにも恥を晒しているとは…。

布団に滑りこみ、ドキドキした。動悸がする。なぜか心臓がアップテンポなビートを刻んだ。眠りたいのに眠れない。

怒涛に押し寄せる鬱、鬱、鬱…。

目を閉じ、何度も寝返りをする。エロいことを考えても、ポジティブなことを考えても、心に浮かぶ「生まれてきてすいません」。盛大などよーんが僕を包む。

夕方頃、布団から起き上がりこの前買っておいた麦茶を流し込む。酒の味がした。しかし、やはりミネラルは正義だ、と自分に言い聞かせる。

窓を開け、タバコに火をつけボンヤリ。

外から爽やかな風。近所の公園で戯れる子供たちの声。遠くの空がオレンジ色に染まり、僕の心は虚無の渦中。

もし生まれ変われるのなら、どこぞの小虫でいい。何も考えず地ベタを這いまわってお疲れでいい。

「もう、酒やめる」