僕は、五(ぐ)に張った。

思った事を書いてるだけ

「いかにも」って奴にブチギレられる

「ヒマなら打ちにきてよ、1人抜けるから」

そう連絡を受け、僕はとある雀荘へ向かった。

雀荘の階段でヒラさんと会った。

「おお!久しぶり!」

僕「おつかれです。何言ってんすか、先週打ちましたよ」

「あれ、そうだっけ?俺勝ってた?」

僕「チンチンになってたと思います」

「マジかウケる」

そんな談笑を軽くかわし、ヒラさんは去っていった。

卓には連絡をくれたBくんと「いかにも」って感じのゴリラないかつい奴が座っていた。

そのいかにもくんは初めましてだ。

だが

「なんだ、サンマかよ!」

挨拶もせず、彼らに言った。

それはよく知らない、いかにもくんへの牽制だった。

勝負事において、「コイツやべえ奴だな」って思わせる事ができれば場の流れを掴める。つまり風上に立つ為のハッタリ。醸し出す「慣れてる感」は相手を一歩引かせるんだよ。

僕はコートを脱ぎながら席に着いた。

ごめんごめんと言いながらBくんは仮親の賽を振った。

カラカラと賽が回る音の中「いかにもくん」がはじめましてと挨拶をしてくる。

僕はそっけなく「どうも」と返した。

パフォーマンスはまだ続く。

僕「Bくんの友達?」

B「ああ、ウチの従業員」

いかにもくん「○○と言います!よろしくお願いします」

僕「どれぐらい打ってるの?」

いかにもくん「中学ん時からっすかねえ」

僕「ふーん、なんか強そうだね」

B「いや、こいつ雑魚いよ笑」

いかにもくん「全然弱いっす笑」

僕「まあ楽しく打とうよ、よろしくね」

起ち親はBくんだった。

配牌が配られるとBくんはすぐに九萬を切った。彼はリャンシャンくらいまで理牌をしない。だから、すぐに手の進行具合がわかる。つまりそんなにレベルは高くない。

なぜそんな愚行をしているのか前に聞いたことがある。

ただめんどくさいから。らしい。

「Bくん麻雀やめたほうがいいよ」

そう言ったら彼は爆笑していた。

いかにもくんはじっくり理牌していた。

手が入っているのかなんなのかわからないが、その手つきからしてあまり打ち慣れてないような気がした。

そして1打目に切り出したのはドラの一萬。

「ドラじゃん笑」

Bくんがちょっと嬉しそうに言えば、いかにもくんは「ああ!」と驚いた。

場は和やかな雰囲気に包まれていた。

そして、半荘5回ほど打って僕の成績は2、2、2、2、3。トータル-30ほど。

ほぼほぼ配牌負けしており、出遅れては降りて回してツモで削られるという展開が続いた。

トップはBくんだった。

その引きは圧倒的でブンブン丸。

ドラと中牌のほとんどが彼へ寄っていたと思う。

いかにもくんは4ラスでそのマイナスは200近かった。

「次ラス半でお願いします、明日早いんで」

いかにもくんが不機嫌そうに言った。

あからさまにイライラしていた。

僕「そう言えば、ヒラさんの時はどうだったの?」

ラス半が始まった直後、いかにもくんに聞いてみた。

「あー、これっす」

いかにもくんは指を三本立てた。

「やっとるねえ」

正直、その指三本の意味がわからなかった。しかし、イライラしてる彼をしてこれ以上掘り下げるのもよくないなと思い適当に流す。

ラス半は僕がトップで終わった。

チンチンになったいかにもくんを狙い打ちした結果だった。

いかにもくんはよほど悔しかったのか、「もう麻雀引退しますわ」と涙目で言っていたのが印象的だった。

Bくんは得点表片手に電卓を弾いていた。

「えー、とりあえず、いかにもが-220ね」

半荘6回で-200なんてよっぽどもってないなあ…そうしみじみしていると、いかにもくんが食って掛かってくる。

「俺を狙い打ちしてましたよね?」

テカテカに黒光りした顔から怒りが見えた。

これが彼本来の姿か。凄みがバチバチに効いている。というかゴリラ、その顔マッドマックスで昔見たことある。

怖え。普通に怖え。

「たまたまだよ」

タバコに火を付けながらそう答えた。

ちっ

え?

たしかに聞こえたその舌打ち。

その刹那、Bくんは弾いていた電卓でいかにもくんの頭を叩きこう言った。

「てめえ調子のんな」

「…すいません」

「ははっ…やめとけって、電卓壊れるって」

この期に及んで電卓の心配してどうすんだって話だが、それくらい僕はテンパっていた。

「…お先失礼します」

いかにもくんは立ち上がり、トゲトゲのポーチを抱えて去っていった。

Bくんは軽く言った。

「ごめんね」

「いやいいよ、麻雀で怒ってる人久々に見れたし」

精一杯のディスだった。

そして、「また打とうね」と言い合い雀荘を後にした。その帰りの道、そういえばBくんってなんの仕事してるんだろうと、ふと思った。

ただ、考えたところでしょうがない。

まあ、いいや…。

そして後日、いかにもくんが自宅にピザを配達してきてその謎は解けた。

ドアを開けた瞬間、彼は1打目にドラを切ってしまった時のような顔をしていた。

「この前はすみません」

「いや、あれはたまたまだよ笑」

ふふふ、といかにもくんと共に笑った。

渡されたマルゲリータはチンチンだった。