10万落として愉快なラジャさん
こんにちわ。
先日、僕は朝イチから錦へ飲みに出た。
経緯としては深夜に家で1人で飲んでいて、酔っ払って友人に連絡したら「いっしょに飲もうぜ」となった。僕は酒の臭いをプンプンにさせフラフラしながらほぼ始発に乗り錦三を目指した。
そして、到着。
立ちんぼの姐達をかわしながら指定されたビルを目指した。友人がそこで店をやっている。しかし、それは酒を提供している店ではない。まあ、あれだ、言うておおっぴらには書けないかなり香ばしい店だ。
道中のコンビニで酒とツマミを買い込み、そのビルに到着。友人に「着いたよ」と連絡すれば、エレベーターに乗るよう指示された。
そして、その店へ到着。
友人とはかなり久しぶりの再会だった。彼とはその昔いっしょに仕事をした事がある。積もる話は僕たちの酒を加速させた。
ストロングゼロという酒がある。あれが、僕の記憶をところどころ飛ばしてくれた。
覚えているのは、友人の店を出た後フラフラと街をさ迷った事。箱ヘルに凸ってヤンキーチックなお姉さんが頑張っていた事。タクシーに乗った事。以上まる。
意識が戻ったのは夜。自宅の玄関だった。
玄関に入った途端に力尽きたようで靴も穿いたままだった。そして暗い室内をフラフラと歩き、トイレで吐いた。その後に水をガブ飲みして、タバコを吸った。アタマが割れるように痛かった。なにより気持ち悪い。襲われるネガティブああ死にたい。
そして、眠剤を入れて布団に潜り込み意識を失った。
目が覚めると、昼だった。やたら天気がいい。窓を開ければさわかな温い風が頬をさした。酒はほぼほぼ抜けている。世界はなんて素晴らしいんだ…。
さて、昨日の整理をしましょう。
まずいっしょに飲んだ友人に連絡。あの時の状況やその後についてを確認する。しかし、彼もよくは覚えてないらしく気付いたら僕は帰っていたらしい。
「また飲もうね」
その一言は僕の心を軽くしてくれた。
まあ迷惑はかけてないようだ。こっちはよし。
で、ブラウザに残っていた画面で箱ヘルの支払いをクレカで決済していた事を確認。
ただ何分コースに入ったのかはわからない。まあいい。
しかし、謎なのはなぜクレカで払ってるのか?
この時、僕は10万を封筒に入れてカバンに忍ばせていた。それは先の支払いや1ヶ月分の生活費、そして博打のタネ。いわゆる僕の全財産。
ちなみに、僕のような博打打ちに貯金などはない。そりゃそうだ、こんな生活をやってりゃ貯まるわけがない。
しかし、現金があったのになぜそれで払わなかったのか?
いやな予感がした。
昨日着ていた服のポケットをまさぐる。そこから出てきたのは小銭とクレカとライター。タバコはある。スマホももちろんある。
そしてドキドキしながらカバンをチェック。
財布はある。しかし、ゼニが入った封筒がない。
まさか、僕はまだ夢を見ているのか?
アタマの中に「ガビーン」という擬音が木霊した。なにより状況がよく理解できない。なぜ、あの封筒だけがないのか。消えた、僕の10万円が。
ショック、ショック、ショック…。
うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
これが、10分前までの出来事。
たぶん、どっかに落とした。それしかない。
おそらく箱ヘルの時点でその封筒が見当たらなかったからクレカで払っていたんだろう。なんて呑気なやつなんだ当時の僕は。
今は多少落ち着き、これからの事を考えている。
もはや失ったものは仕方ない。そう、振り返ってもそこに夢はないんだから。これからどうするか。それを考えなければならない。
今ある現金はこれだけ。
とりあえず、どこからかツマむとしても結局支払いへ回さないといけないからバイトなぞして埋めなければならない。そして、これからクレカ生活だ。
博打を打つ余裕などない。だがまあ、今の僕の運で勝負してもきっと負けるだろうから、これでいいのかもしれない。
しかしまあ、ツイてないなあ…
以上
【第5回】1万円チャレンジ~パチンコ~
軍資金は1万円。
それ以上は賭場へは持っていかない。なぜなら僕はすぐに焼けて鉄火してしまうから。
僕は僕の事をよく知っている。
豆腐の意志にコンニャクのメンタル。
だからこそ、賭場へは財布を持っていかない。ポケットには万券1枚とタバコとスマホだけ。それでいい。それでいいんだ。
それに、ツキがある時は大1本で十分。
それこそが僕の勝ちパターン。
さあ、勝負だ。
○パチンコ
もはや意地みたいなもの。ユニコーンでやらかすぞ、僕はユニコーンでやらかすぞ、くっそブンブンいわしたるぞ。
しかし流れが悪い。ここまで3連敗。ノーヒットノーランの完封。マジでやれてない。
本当に僕はやれんのか?ってかユニコーンばっかやっててバカじゃねえ。
そんな気持ちで、挑んだ今回。
投資6000円。
先読みNTD点滅からの
レバブル頂きました。
ここまで長かった。この企画を初めてなぜか引けなかった初当たりがついに…。
しゃっ!!!
からの単発。
は?
クソつまんねえ。
そして追いで2000円打って心折れる。ダメだ。マジでやれる気がしねえ。
【第5回】1万円チャレンジ
結果 -8000円
通算 5戦1勝4敗 -37200円
【第4回】1万円チャレンジ~パチンコ~
軍資金は1万円。
それ以上は賭場へは持っていかない。なぜなら僕はすぐに焼けて鉄火してしまうから。
僕は僕の事をよく知っている。
豆腐の意志にコンニャクのメンタル。
だからこそ、賭場へは財布を持っていかない。ポケットには万券1枚とタバコとスマホだけ。それでいい。それでいいんだ。
それに、ツキがある時は大1本で十分。
それこそが僕の勝ちパターン。
さあ、勝負だ。
○パチンコ
おい、そろそろやらかせよユニコーン。
もうヤバイよ。いよいよゼニがねえよ。頼むよ、頼むよ。この際、当たってくれるだけでいい。単発でもいい。笑ってくれ、バナージ…。
しかし、マジでなんもなく終。
え?疑似2とブライトさんとトロハチしか見てないんだが?
は?
クソつまんねえ。
【第4回】1万円チャレンジ
結果 -10000円
通算 4戦1勝3敗 -29200円
【第3回】1万円チャレンジ~麻雀~
軍資金は1万円。
それ以上は賭場へは持っていかない。なぜなら僕はすぐに焼けて鉄火してしまうから。
僕は僕の事をよく知っている。
豆腐の意志にコンニャクのメンタル。
だからこそ、賭場へは財布を持っていかない。ポケットには万券1枚とタバコとスマホだけ。それでいい。それでいいんだ。
それに、ツキがある時は大1本で十分。
それこそが僕の勝ちパターン。
さあ、勝負だ。
○麻雀
この企画に麻雀を加えると賭博罪でチョンボみたいなこと言う生娘みたいな諸兄もいるから、はじめに言っておきたい。
カネは賭けていない。賭けていたのは「気持ち」だ。
そして麻雀と、この1万円チャレンジの紐付けとしてはこうだ。【1万気持ち以上負けたらやめる】もちろん、それは事前にメンツには伝えていた。
そのうちの1人はこう言った。
「ラジャくん、またゼニねえの?」と。
まあ、たしかにないがそういうことじゃない。大1枚ありゃそれでいいのよ。
アリアリの三麻。赤2枚ずつ、ツモり損なしというピカピカインフレルール。なにより、メンツが緩い。僕以外は酒を飲みながら打つ。
マジで爆勝ちできると思った。
だが、結果は+4。リャンピン計算で+800円気持ち。負けなかったからよかったとは思わない。もっと勝てたんだ。明らかに僕は。
しかし、どうも手が入らなかった。4回に1回は得意の国士チートイやってたような気がする。
そういえば、こういうことがあった。
オーラス、僕は南家でほぼ原点。九索待ちで国士を張った。それはかなり早く、たしか一段目とか。それで、迷彩もきっちりだった。配牌から10種だったから対子の白とか一巡目に落としその後も良い感じに么九打ってて完璧に国士を消せてたんだ。
あれは皆騙される。そんな捨て牌だった。
他もバチバチに么九を切ってくれていた。それは僕が国士やってるなんて気付いていない打ち筋だった。
だが、九索だけが出ない。そして引けない。
そして、中盤あたり。対面が九索を暗カンした。
そりゃ引けんわ。と思いつつ
僕は牌を倒した。
それは賭けだった。
どこかで聞いた【国士の暗カン上がり】の実行。もちろん、そんな細かいことついて事前に取り決めてはいない。だからこそのワンチャンに賭けた。
しかし案の定「暗カンはロンできないよ」とカンした対面は抗弁してくる。
そりゃそうだ。
だからこそ、ここからはそれがさも当たり前かのように振る舞い、彼を言いくるめられるかが勝負。まあ、相手が後輩なら楽だが、彼は僕より年上でなかなかのクセ者。一筋縄ではいかない。
少しの押し問答の末、次回からは無しで今回はサイコロで決めようとなった。
それは我々ギャンブラーにとって平和的な解決手段。
つまり、カンした対面と僕で賽を振り僕が彼より大きい目を出せばこの国士は成就する。しかし負ければチョンボ扱い。罰符とツモ切りでgone。
僕が先行。
まさかのピンゾロだった。
そして、対面は3。
なんとも低レベルな戦いで僕は刺された。
そして海底の五索できっちり対面の三倍満に振り込み僕は飛んだ。
クソつまんねえ。
そこから流れは悪くなり、なんとかトータルギリギリ+で勝負は終わったが、やはりここだった。勝負処は。
ここを、刺せていれば流れは変わっただろう。
最近、ツイてない。
【第3回】1万円チャレンジ
結果 +800気持ち
通算 3戦1勝2敗 -19200円
【第2回】1万円チャレンジ~パチンコ~
軍資金は1万円。
それ以上は賭場へは持っていかない。なぜなら僕はすぐに焼けて鉄火してしまうから。
僕は僕の事をよく知っている。
豆腐の意志にコンニャクのメンタル。
だからこそ、賭場へは財布を持っていかない。ポケットには万券1枚とタバコとスマホだけ。それでいい。それでいいんだ。
それに、ツキがある時は大1本で十分。
それこそが僕の勝ちパターン。
さあ、勝負だ。
○パチンコ
昨日の敗けを引きずっている。
どうも、やれる気がしない。しかしやらなければならない。今日こそは万々ぶっ刺してやる。
ちなみに、鬼ルーティーンをかましてある。
それは、この勝負の前にアジエスへ凸した。まあ結果としては鬼チョンボだったが、アジエス後の勝負はなんとなく運気を上げてくれるような気がする。
ということで、今日もユニコーンから。
ユニコーンアタック1回、ブライトさんとジンネマンを1回ずつ観てサクッと溶けた。マジであかん。
クソつまんねえ。
しかし、回った。非等価とはいえ大1本で200回ちょいはなかなか良い。だからこそ、今日は他に目移りせずに完走することができた。まあ、当たらんかったけど。
やっぱ、アジエスで鬼チョンボしたのがいかんかったのかな。右手に邪気がついていたのかもしれん。
今日はツキがなかった。
【第2回】1万円チャレンジ
結果 -10000円
通算 2戦0勝2敗 -20000円
【第1回】1万円チャレンジ~パチンコ~
軍資金は1万円。
それ以上は賭場へは持っていかない。なぜなら僕はすぐに焼けて鉄火してしまうから。
僕は僕の事をよく知っている。
豆腐の意志にコンニャクのメンタル。
だからこそ、賭場へは財布を持っていかない。ポケットには万券1枚とタバコとスマホだけ。それでいい。それでいいんだ。
それに、ツキがある時は大1本で十分。
それこそが僕の勝ちパターン。
さあ、勝負だ。
○パチンコ
今回はパチンコで勝負。前述したようにタネは1万円。
選んだ台はユニコーンガンダム。
刺さる時は数千円で刺さる。ほんとこれ。これまで、僕はそれなりにユニコーンを打ってきた。勝った時はたいがい1万円内でぶっ刺している。
つまり、1万円チャレンジとの相性は抜群というわけだ。
先読み+レバブルのカスタムを入れスタート。
5000円溶けたあたりでノーチャンス。SPにすら発展しない。というか、絶賛回らない。
しかし、6500円目で先読み発生。ドゥルドゥルドル~の役物赤先読みから疑似3。
保留変化、レバブルはなし。
そして特に熱い演出もないままユニコーンアタックへ。4ラインは当たり前のように外れる。
でもちょっとだけドキドキした。
結果、500円追いして台移動。やはりツイてる時はさっきので当たる。今日はユニコーンはダメな日だ。
計7000円溶かしの残りが3000円。
そして、僕はエヴァへ座った。左手でハンドルを捻りシンプルモードでスタート。
案の定、何も起こらず速攻で3000円は溶ける。
クソつまんねえ笑
出入口で消毒をして店を後にした。
今日はツキがなかった。
【第1回】1万円チャレンジ
結果 -10000円
通算 1戦0勝1敗 -10000円
酒が進んだ夜に
夜中、家で飲んでいた。
たまには女でも買うかと思った。
今思い返してみても、なぜそう思ったのか理解できない。ゼニに余裕はなかった。それに僕は呪いを抱えている。向いてないんだよ。そんな直線的なエロなど秒でポンだ。
おそらく、酒の力だろう。普段飲み慣れないワインに当たったと思われる。
ググって適当に安そうなお店を選んだ。
電話に出たのは眠そうな片言の姐マダム。
もちろん、自宅へと呼んだ。料金はトータル13000。つまりヒサンだ。実際、その相場なんてよくわからない。しかし、まあ普段凸してるアジエスとかと比較すればそれなりリーズナブルな気がした。
住所をショートメッセージで送る。そしてその30分後くらいに店から電話が掛かってきた。
場所がわからないと。
すでに住所は送っていたのだからこれ以上説明のしようがなかった。近くに○○がある、今どこにいるのか?何が見えるか?そんなやりとりをして電話を切りさらに30分が経過。
痺れを切らし僕の方から電話をする。そうすれば、
「ドライバー怒って帰っちゃった」との事。
いや、そんな事あるんかいとは思ったもののマダム姐はすでに違う子を派遣したと自信満々に捲し立ててくる。
なかなかできるじゃないか。
「あと10分でつくよ!」
そう言われ電話を切った。
そして、インターホンが鳴る。
僕は立ち上がりふらふらしながら玄関へと向かった。扉を開ければ、これぞまさしくアジアン姐がそこに立っていた。どうぞどうぞと中へ案内し、居間のソファーに腰を下ろした。
彼女は僕の宴の様子を見て「おにいちゃん、けっこう飲んでるねえ」と驚いた風に言った。
「よかったら、キミも飲むかい?」
「ああ、ありがとう」
冷蔵庫から、いつかのレモンチューハイとハイボールを出してどっちがいいか聞いた。彼女はちょっと悩んでレモンチューハイを選んだ。
ソファーに座り、乾杯。
あ、そういえば料金払ってない。「お姉さん、おいくら万円やったっけ?」「13000よ」もちろん把握している。だからこそすでに僕のポッケに畳んであったヒサンを彼女へ渡した。
テレビで垂れ流していたアウトレイジがいよいよ佳境に入る。姐は怖いと目を伏せた。僕は無言でテレビを消した。
そういえば、キミの名前は?
マイ。
良い、名前だね
あなたは?
ーーーきっぺい。
それはまさしく、さっきまで観ていたアウトレイジの影響を受けた名前だった。彼女は僕の事を「きぺいさん」と呼んだ。
僕達はソファーで肩を寄せ会いタブレットでYouTubeを観た。彼女のおすすめの中華アーティスト、僕が唯一知っている我不後悔、スタミナはビビアン・スー、それらを眺め酒を飲みながら楽しい時を過ごした。
ーーーきぺいさん、子どもいる?
今はいないよ
それを皮切りに彼女は自身の人生について語ってくれた。僕はその話を聞いていると、目頭が熱くなった。間違いなく、彼女は苦労していた。家族の為、身体を売ってゼニを稼ぐその姿になんだか切なくなった。
それでも、彼女は微笑んでいた。
ちらりと時計を見た。
彼女がここに来てからすでに40分が経っていた。
彼女との契約、それは1時間。今は寄り添いにこやかに微笑んでくれているが、あと20分ほどで彼女はいつもの彼女に戻り、お城へと帰っていく。
魔法が解けないうちに、スッキリはしておきたい。
和やかなムードは、僕の「じゃあそろそろ頼むわ」で終焉を迎える。彼女はレモンチューハイをキュッと飲み干し「オーケー」と言った。
そして、それは流れのままに執り行われた。
ソファーの上、タブレットから垂れ流されるよくわからない中華POP、彼女のカバンから出てきたウェッティなティッシュで拭かれ、一気に。
仕上がりに仕上がった頃、彼女は囁く。
「一万でもっと気持ちいい」
本来なら、それは悪しき呪文である。しかし、彼女がそれを言うと、どうも重みがあった。なにせ、彼女は子どものミルク代をおじいさんのお粥代を稼がなければならない。
だからこそ、ここは気持ちよく出してあげたいし、なんなら僕も気持ちよく出したい。
「ちょっと待ってて」
僕はビンビンを左右に振りながら自室へと向かった。財布からゼニを取りだそうとするも、そこには漱石が5人のみ。
ごめん…
そう言いつつ彼女の元へと戻った。
すると、彼女は言った。
「今日は5000円でいいよ」
「ありがとう」
そして、その営みはわずか数秒で終わり僕達は服を着てソファーに腰を下ろした。彼女はレモンチューハイの缶を持ち上げると、それが空だと気付きテーブルの上に置いた。
よかったら、もう一本飲む?と聞けば、もう時間だからと彼女は首を横に振った。
最後にLINEを交換した。
彼女のアイコンはお子さんの写真だった。
「可愛いね」
「ありがとう」
彼女は微笑みながらそう言った。しかし、なぜか僕の心は妙に切なかった。その理由はよくわからない。
彼女を玄関まで見送り、また酒を飲んだ。
テーブルの上に咲くティッシュの花。そこには僕の不摂生が包まれている。
深いため息が出た。
以上
往々にして断酒への想い
先日、僕は博打で大金を溶かした。それはこれまで博打でコツコツと貯蓄してきたいわゆる「ギャンブル基金」というやつ。博打で得たゼニを博打で溶かすという至極当たり前の流れだからこそ納得はしている。
問題はその後に起こった。
スコスコにやられて帰宅し、風呂に入ってしょっぱいビールをやりながら映画を観ていた。いや、厳密に言えばその映画が始まるまでの他作品の予告しか観ていない。
あれだ、一昔前のDVDによくある本編前に垂れ流されるあれ。僕はそれをボンヤリと眺めながらふとこう思った。
(あのゼニで違うことやっとけゃよかった)と。
それはひた隠しにしてきた本音中の本音。押し寄せた後悔、悲痛な想い、気付かないうちに刻まれた傷。僕はテレビを消し立ち上がった。
飲みに行こう。
たしかに泡ゼニはもうない。財布にあるのは僕が汗水垂らして得た正真正銘の生きたカネ。いや、生きるためのカネと言ったほうがいいのかもしれない。
時に、博打で得たゼニで飲みに行くのはいいのが、働いて、つまり仕事して稼いだカネで飲みにいくのは愚か、とくにキャバクラは。という信念がある。
だから、飲みに行こうと思ったものの、だいぶ躊躇した。そして、僕は愚を犯す。こともあろうに、どうしようかという相談をするために懇意のキャバ嬢へと電話をしてしまった。
そんなの、もちろんすぐに来いとなる。
内心わかってはいたこうなることは。ただ、人間なんてそんなものだ。迷いが生まれる時、常に気持ちがいいほうに進みたくなる。「やる」か「やらない」だったら、とりあえず「やりたい」。
結局、そのキャバクラには3セットいた。4万いくらだった。楽しかったかどうかは覚えていない。またヘベレケに酔っ払ってしまった。
どういう経緯かわからないが、アフターが刺さった。つまりその店を出たあと、そのキャバ嬢とどこか行きましょう的な。通った者にのみ与えられるご褒美。夢叶う
僕は近くのコンビニ前で弁当とレモンチューハイをやりながら彼女を待った。余談だがその弁当とかを買う時、女性の店員さんがこう言ってきた。
「お兄さん、先週も来てましたよね?」
「ええ、たぶんそうです」
「だいぶベロベロだったんで覚えています笑」
「お恥ずかしい、ちなみに今日もベロベロです。こんど飲みにいきませんか?」
その問いに対して彼女がどう返したのかは覚えていない。思い返してみれば、顔から火が出るくらい恥ずかしいという事実だけだ。
とりあえず当分はそのコンビニへは行くまいと誓った。
夜中の2時頃になった。まだキャバ嬢はこない。いよいよ待ちくたびれた僕は電話をした。
ミーティングが長引いてあと30分くらいかかると言われた。
このパターン、アフターを望んでいるのは僕だけしかいないやつだ。
おそらく、時間を間延びさせ来たとしてもガルバ1セットでお疲れとなるだろう。僕も長年、夜の世界で生きている。だからこそ、見えてはいけない事まで見えてしまう。
(今日は帰ろう…)
その事をキャバ嬢へ告げれば、なんとなく声のトーンがワンオクターブ上がったような気がした。
「じゃあ、次は絶対、きっと!」
彼女はそんな風味で電話を切った。そして、僕は自宅まで歩いた。道中、コンビニで500のレモンハイボールを買ってそれを飲みながら。
静寂な住宅街を歩いていると、なんだか妙な孤独感に苛まれた。変態紳士クラブの「YOKAZE」が脳内再生された。
僕は何をやっているんだろう。
ずっとそんなことを考えていた。
帰宅して、スエットに着替え、すぐに布団へ飛び込んだ。どことなく、彼女の匂いがした。甘ったらしい香水と酒とメスの匂い。込み上げてくる焦燥感と吐き気を飲み込みながら、僕の意識は落ちた。
目を覚ました時、外は明るかった。
たぶん、昼前くらいだろう、そう思いつつ布団から起き上がりキッチンで水を飲んでトイレで小便をした。
そして、居間で一服。自身の行動、いや、自分そのものに、ものすごい嫌悪感が生じた。
なぜ昨日キャバクラへ行った、またヘベレケな醜態を晒してしまった、何を話した、そんなんだからアフター断られるんだよ、ってかカネないくせになにやってんだよ。
死にたい。
財布を開けば二千円。それがさらに鬱々しさを加速させていく。
恐る恐るスマホを開いた。彼女から連絡はない。
しかしTwitterの通知がいっぱい来ていた。ああ、あの時だ、なんか僕呟いてるし。日常世界だけではなくネットにも恥を晒しているとは…。
布団に滑りこみ、ドキドキした。動悸がする。なぜか心臓がアップテンポなビートを刻んだ。眠りたいのに眠れない。
怒涛に押し寄せる鬱、鬱、鬱…。
目を閉じ、何度も寝返りをする。エロいことを考えても、ポジティブなことを考えても、心に浮かぶ「生まれてきてすいません」。盛大などよーんが僕を包む。
夕方頃、布団から起き上がりこの前買っておいた麦茶を流し込む。酒の味がした。しかし、やはりミネラルは正義だ、と自分に言い聞かせる。
窓を開け、タバコに火をつけボンヤリ。
外から爽やかな風。近所の公園で戯れる子供たちの声。遠くの空がオレンジ色に染まり、僕の心は虚無の渦中。
もし生まれ変われるのなら、どこぞの小虫でいい。何も考えず地ベタを這いまわってお疲れでいい。
「もう、酒やめる」
二日酔いは水を飲もう
昨日、家でしこたまに酒を飲み酔っ払ってパチ屋へ行った。
数千円使ってエヴァで1万発ちょい出た。
それは久しぶりの快勝でマジで嬉しかった。すぐに交換して約5万円の小遣いを得た。連チャンしている時から、その使い道はすでに決めていた。
豪遊しよう。
つまりそれはキャバクラだ。ナイトワークに従事している僕にとって酒を運ばれ接客される側に強い憧れがあったりする。たまにはいいじゃないか。
懇意にしているキャバ嬢がいる。
彼女は僕がどこぞのキャバクラのボーイである事を知らない。だからこそ、ガチで口説ける奇跡のような存在。あと一歩でアフターくらいは行けそうな気配がある。だからこそ、この5万円はそのワンチャンに賭けようと思った。
彼女に連絡をすればきっちり出勤していた。僕はタクシーを拾い、すぐにその店へ向かった。
そして1杯目にテキーラを乾杯。それは彼女を酔わせる為のチャンスメイク。僕のスケベ心が静かに微笑む。
しかし、すでに酔っ払っている僕にとってこのテキーラは重すぎた。すぐに思考がクルクル回り、意識が朧気になっていく。彼女は言った「今日は私も飲みメンなのよね」。
その言葉は2杯目のコカボムを誘い、さらにクライナーへと続き、その後に薬みたいな細長いやつを乾杯することになった。僕は完全に飲まれた。
ドライフラワーをカラオケで歌った記憶。「キャバ嬢とは」という講釈を偉そうに垂れた記憶。カネならあると連呼していた記憶。
恥ずかしい。
そして、僕は自宅の布団で目を覚ました。外が明るかった。雀のチュンチュンが聞こえた。スマホを見る。充電が切れていた。
ふいーーーーという長いため息が出た。
込み上げてくる吐き気、眉間に走る鈍痛。そして尿意。起き上がるとふらふらした。まだ俄然として酒が残っている気がした。
便座に座わり小便を垂れれば、気が抜けた屁と共にちょっとだけウンコが出た。くせえ。
昨夜の失態が断片的にフラッシュバックしてくる。ああ、恥ずかしい。死んじゃいたい。あんな偉そうなことべらべら語ってべへれけに酔っ払って。中途半端に覚えているからこそ、余計にきつい。もう消えてなくなりたい。いやマジで。
水道水をコップ3杯飲んで再び布団へ入った。こういう時はとにかく水を飲んで体内の水分を入れ換えなければならない。ずっと世界がグルグルと回った。動悸と吐き気と憂鬱に苛まれすべてが灰色だった。気持ち悪い、死にたい、辛い…。それから、起きているのか寝ているのかよくわからない状態をさ迷った。
出来るだけスケベな妄想をした。それは唯一考えることができるポジティブな思考。しかしどうして、そんな妄想に昨日のキャバ嬢が登場しては再び負のループに陥ってしまう。ああ、もうヤダ。酒なんかもう飲まない。気持ち悪い、気持ち悪い、僕、気持ち悪い…。
そして、夜になった。酒は抜けたような気がしたが、憂鬱さは抜けなかった。むしろ加速していた。虚無、不安、焦燥…。負のパワーに押し潰されるような感覚がした。
しかし、仕事には行かなければならない。布団から起き上がり、熱いシャワーを浴びた。
財布とアイコスは昨日穿いていたズボンのポケットに入っていた。財布の中には千円札が1枚。そしてアイコスのスティックがない。ものすごい気持ちになった。あー、最悪や。
道中、コンビニでパンと野菜ジュースと紙タバコを買った。食欲など微塵もなかったが無理矢理にでも食っておくのは二日酔いへの対策でしかない。
職場でモソモソとパンをかじりながら昨日のキャバ嬢へお礼とアイコスのスティックの件についてLINEをした。返信はすぐになかった。それが、さらに不安を掻き立てた。もしや嫌われてしまったのか…。
同僚に昨夜の件を話すとちょっとだけ気持ちが楽になった。もっと笑ってくれ僕の愚行を。やはり、誰かに話す事で悲劇は喜劇へと変わる。僕の十字架は軽くなっていった。
そして、営業が終わり帰宅した頃、昨夜のキャバ嬢からLINEの返信がきた。「楽しかったよ、4月はバースデーだから絶対来てね」と。その言葉にずいぶん救われた。アイコスのスティックは店にはなかったとの事だったが、全然いい。
昨日の僕よ、ただ成仏してくれ。
気持ちはだいぶ晴れていた。ふと時計を見れば、朝の5時。たぶん、おそらく、昨日最後に酒を飲んでから24時間は経っている。もう、大丈夫だ。そんな気がした。
さっきコンビニで買ってきたしじみの味噌汁にお湯を入れた。二日酔いにはやっぱこれだよね。
熱々のそれをすすっていると、なんとなくビールが飲みたくなった。
魔王刺し
その昔、Gくんというバイトがいた。
彼は歯がなく、髪もなく、カネもなかった。
その歯はシャブで溶け、髪は刑務所で丸刈りにしてから生えてこなくなったという。
小汚ないおじいちゃんといった見た目だ。
しかしまだ40代前半というのだから、なかなか仕上がっている。
昼は日雇いの土木作業員。
夜はキャバクラでバイト。
稼いだカネは飲んで打って買って溶かす。
そんなGくんは漫喫で寝泊まりをしていた。
「名駅らへんとかテントはってるやん。そこ行ってみたら?」と冗談で言ったことがある。
「そんな、ホームレスじゃないんだから」
と真顔で返された。
そんなGくんと麻雀を打つようになったのは、詰所に自動卓が設置されてからだった。店長が知り合いに譲り受けたらしい。
営業後、従業員で打つのが恒例となった。
僕達にとってかけがえのない癒しだった。
仲間内だからツケもきく。
だからこそ、カネがないGくんでも参加することができた。
しかし、彼のツケは物凄いスピードで溜まり「テンゴでここまで負けるの?」と皆を驚かせた。
歴はそこそこある(らしい)のに、その腕前はド素人。
長考はあたりまえ。チョンボなんかもちょいちょいする。悪すぎる牌効率、シャボ待ち大好き、すぐに鳴き、降りという選択肢はない。
いわゆる、雑魚中の雑魚ーーー。
だが、そんな彼もツキがある時は無双する。
それが、麻雀。つまりはギャンブルだ。
特にGくんのようなタイプにツキが加わればマジできつい。降りないし、悪待ちが多いから待ちがわかりずらい。しかもそれをスパッと上がり打点も付いてくる。
大いに理不尽さを感じさせてくれる。
例えば、素人がよくやるドラだから祝儀あるからって理由の赤単騎を平気でツモったり。
そんな状態に入った彼を僕達は魔王と呼んでいる。
「さすが魔王強いわ」
「やっぱ魔王だわ、なにその引き」
「やっとるねえ魔王!」
それは、ある種のディスりでもある。
つまりけっこうイライラしちゃうわけだ。
なにせ、彼の理不尽な上がりはいろいろと考えてやってる事をバカらしく思わせてくれる。博打とは理不尽なものだが、こうも雑魚に出張られるとイライラするのはリアルな話だ。
しかし、そんな想いは皆を同じ方向へ進ませる。
退治したい。
暴れ狂う暴君を倒したい。
キャン言わせたい。
皆、言葉にはしない。でも互いに伝わっている。
もちろん、そこに打ち合わせなどなにもない。
各々が魔王を刺すべく高打点の手を作り始め、魔王以外の誰かがテンパイしたら見に徹し(魔王振り込め)と心の中で祈る。
ーーただ、やはりノってる魔王は強い。
テンパイ即リー、上がればクソシャボ。ようそんなんで…。
何をやっても正解になる。
魔王が親の確変に入った。
こういう場合、一翻キックでサクッと流すのがセオリーなんてのはわかってる。しかしなかなかどうして魔王に会心の一撃をぶちこんで流したい。
機を待った。魔王を刺す偶機を。
…チャンスは突然訪れた。
魔王の親6本場。
たしか、2段目入ったくらいだったと思う。
僕の対面がノータイムで切った2索に魔王のツモモーションが止まった。
そして、ぬるりと牌を倒した。
「ほら、これ!スッタン!!」
全員が魔王の手牌に釘付けになった。
2333555999s888m
ああ…
すげえ…この順目でスッタンかよ…愛されとる。いやマジで愛されとる。
さすがにこれには引いた。
「えっと、これダブルでいいよね!しやああああ!やったああああ!!」
魔王、ガッツポーズの連打。
ひたすらにはしゃぐ小汚ないおじいちゃん。
憎い。憎いなあ。なにその嬉しそうな顔…。
ん…?
その魔王の捨て牌に違和感があった。
2順前に魔王は1索を切っていた。
つまり、2333555999s888mは1・2・4索待ち。
フリテンやん
「え…?」
「ほら、23.33で1.4でもいけるやん」
「え…?」
あまりの衝撃にまったく理解できない魔王。
そして気付いて渾身の「あ…!」
おそらく、興奮してて見落としていたんだろう。さすがだ。
「そういうとこだぞ、罰符2000オールね」
※これは魔王独自の罰符ルールでチョンボが多い彼の為にあえて安くしている。そして、チョンボする度に仕切り直すのが面倒なので魔王はアガリ放棄でツモ切り続行となる。
魔王自爆。
彼はツモ切りするだけの木偶となった。
まさに好機到来。
ここだ、ここで刺す。
皆の眼がギラギラしていた。
僕の手は筒子の染五郎あと2枚。張ればタテチンもろもろで倍程度はある。
対面はブリブリの国士か。すでに么九が溢れていた。
下家は縦に伸ばしているのか、あまり入ってなさそうな雰囲気。まあよくわからない。
あーあーあーと言いながらツモ切りする木偶こと魔王。
刺せ、誰か魔王を刺せ。
僕はずっとそう祈っていた。
なにせ、筒子がどうしても拾えない。
対面が静かに打9筒。それは、僕に対して脂ギッシュな牌。ここで察した。それは僕へのメッセージだと。
(ラジャくんこれを通してくれ。俺が獲るから…)
(いや、まだ張ってないのよ)
しかしこれで魔王を倒すロンギヌスが対面から放たれた。
僕は中を引いた。それは生牌だった。
ノータイムで9筒を落とした。
それは対面へのアンサー。
(あとは任せた、必ず獲れよ…)
僕は降りた。
そして、魔王が1索を切った瞬間だった。
ーーーっロンギヌス。
対面の国士が炸裂。
魔王「ぎやああ!!マジかあ!!あーあーあー…」
僕は無意識に叫んでいた。
「っナイスうううう!!!」
「32000ね。サ(3)ニ(2)ー。」
サニー(爆)
そのやりとりに場は沸騰した。
言い出しっぺは魔王だった。
魔「サニーってゴッドファーザーの?」
対「いやそれソニー」
魔「ポンキッキの?」
対「いやそれコニー」
魔「アピタとかの?」
対「は?なにそれ」
魔「ユニー」
対「32000、はよちょうだい」
魔「サニーな」
対「そういうとこだぞ笑」
それから魔王のツキは一気に落ちた。
やけに目立つポンチーはすでに手が入らなくなっていた証拠だった。後の4半荘魔王は全ラスに沈んだ。そしてツケ帳にきっちりマイナスを刻んで漫喫へと帰っていった。
それから数日後、詰所で麻雀を打っている事がキャストのチンコロでオーナーにバレ、自動卓は即日撤去となり僕達の癒しは消えてなくなってしまった。
ついでに、どさくさに紛れてツケ帳もどこかへ消えた。
どこを探しても見つからず、誰も内容をちゃんと覚えていなかった為ツケは白紙となった。
まあ、そんなもんだ。誰も本気で稼ごうだなんて1ミリも考えていなかっただろうから。
ただただ、楽しかった。それでいい。
後日、Gくんにツケが白紙になった事を話すと彼は笑いながら言った。
「僕、勝ってましたよね?」
「そういうとこだぞ」
「いかにも」って奴にブチギレられる
「ヒマなら打ちにきてよ、1人抜けるから」
そう連絡を受け、僕はとある雀荘へ向かった。
雀荘の階段でヒラさんと会った。
「おお!久しぶり!」
僕「おつかれです。何言ってんすか、先週打ちましたよ」
「あれ、そうだっけ?俺勝ってた?」
僕「チンチンになってたと思います」
「マジかウケる」
そんな談笑を軽くかわし、ヒラさんは去っていった。
卓には連絡をくれたBくんと「いかにも」って感じのゴリラないかつい奴が座っていた。
そのいかにもくんは初めましてだ。
だが
「なんだ、サンマかよ!」
挨拶もせず、彼らに言った。
それはよく知らない、いかにもくんへの牽制だった。
勝負事において、「コイツやべえ奴だな」って思わせる事ができれば場の流れを掴める。つまり風上に立つ為のハッタリ。醸し出す「慣れてる感」は相手を一歩引かせるんだよ。
僕はコートを脱ぎながら席に着いた。
ごめんごめんと言いながらBくんは仮親の賽を振った。
カラカラと賽が回る音の中「いかにもくん」がはじめましてと挨拶をしてくる。
僕はそっけなく「どうも」と返した。
パフォーマンスはまだ続く。
僕「Bくんの友達?」
B「ああ、ウチの従業員」
いかにもくん「○○と言います!よろしくお願いします」
僕「どれぐらい打ってるの?」
いかにもくん「中学ん時からっすかねえ」
僕「ふーん、なんか強そうだね」
B「いや、こいつ雑魚いよ笑」
いかにもくん「全然弱いっす笑」
僕「まあ楽しく打とうよ、よろしくね」
起ち親はBくんだった。
配牌が配られるとBくんはすぐに九萬を切った。彼はリャンシャンくらいまで理牌をしない。だから、すぐに手の進行具合がわかる。つまりそんなにレベルは高くない。
なぜそんな愚行をしているのか前に聞いたことがある。
ただめんどくさいから。らしい。
「Bくん麻雀やめたほうがいいよ」
そう言ったら彼は爆笑していた。
いかにもくんはじっくり理牌していた。
手が入っているのかなんなのかわからないが、その手つきからしてあまり打ち慣れてないような気がした。
そして1打目に切り出したのはドラの一萬。
「ドラじゃん笑」
Bくんがちょっと嬉しそうに言えば、いかにもくんは「ああ!」と驚いた。
場は和やかな雰囲気に包まれていた。
そして、半荘5回ほど打って僕の成績は2、2、2、2、3。トータル-30ほど。
ほぼほぼ配牌負けしており、出遅れては降りて回してツモで削られるという展開が続いた。
トップはBくんだった。
その引きは圧倒的でブンブン丸。
ドラと中牌のほとんどが彼へ寄っていたと思う。
いかにもくんは4ラスでそのマイナスは200近かった。
「次ラス半でお願いします、明日早いんで」
いかにもくんが不機嫌そうに言った。
あからさまにイライラしていた。
僕「そう言えば、ヒラさんの時はどうだったの?」
ラス半が始まった直後、いかにもくんに聞いてみた。
「あー、これっす」
いかにもくんは指を三本立てた。
「やっとるねえ」
正直、その指三本の意味がわからなかった。しかし、イライラしてる彼をしてこれ以上掘り下げるのもよくないなと思い適当に流す。
ラス半は僕がトップで終わった。
チンチンになったいかにもくんを狙い打ちした結果だった。
いかにもくんはよほど悔しかったのか、「もう麻雀引退しますわ」と涙目で言っていたのが印象的だった。
Bくんは得点表片手に電卓を弾いていた。
「えー、とりあえず、いかにもが-220ね」
半荘6回で-200なんてよっぽどもってないなあ…そうしみじみしていると、いかにもくんが食って掛かってくる。
「俺を狙い打ちしてましたよね?」
テカテカに黒光りした顔から怒りが見えた。
これが彼本来の姿か。凄みがバチバチに効いている。というかゴリラ、その顔マッドマックスで昔見たことある。
怖え。普通に怖え。
「たまたまだよ」
タバコに火を付けながらそう答えた。
ちっ
え?
たしかに聞こえたその舌打ち。
その刹那、Bくんは弾いていた電卓でいかにもくんの頭を叩きこう言った。
「てめえ調子のんな」
「…すいません」
「ははっ…やめとけって、電卓壊れるって」
この期に及んで電卓の心配してどうすんだって話だが、それくらい僕はテンパっていた。
「…お先失礼します」
いかにもくんは立ち上がり、トゲトゲのポーチを抱えて去っていった。
Bくんは軽く言った。
「ごめんね」
「いやいいよ、麻雀で怒ってる人久々に見れたし」
精一杯のディスだった。
そして、「また打とうね」と言い合い雀荘を後にした。その帰りの道、そういえばBくんってなんの仕事してるんだろうと、ふと思った。
ただ、考えたところでしょうがない。
まあ、いいや…。
そして後日、いかにもくんが自宅にピザを配達してきてその謎は解けた。
ドアを開けた瞬間、彼は1打目にドラを切ってしまった時のような顔をしていた。
「この前はすみません」
「いや、あれはたまたまだよ笑」
ふふふ、といかにもくんと共に笑った。
渡されたマルゲリータはチンチンだった。
お前、やっとるやん
たっちゃんの親リーが入った。
捨て牌からして手なりの早仕掛け。
たっちゃんらしいや。
でも彼は剛運だから怖いんだよ。ニコニコ裏裏なんでザラにある。
僕はゴミ手だったからすぐにベタ降り。
下家のコウさんも追随して降りた。ただ、対面の佐藤だけはゴリゴリに押していた。無スジ、脂ギトギトのところをポンポンと。
なんかやっとるなって雰囲気が場に漂うと、佐藤はこれ見よがしにタバコに火をつけた。
いわゆる、テンパイのサイン。彼はテンパイしてヒリつくとタバコを吸い始める。
佐藤の捨て牌からして筒子の染め手で間違いなかった。
親のたっちゃんはいよいよ焦りだす。
「だーもう!マジでひけへん」
そう言いつつ空降ったツモを強打する。
そして終盤へと進み、たっちゃんも筒子待ちであることが見えてくる。
コウさんが言う。
「やべえ張っちまった!ただ、これ切ったらどっちかに振るんだよなあ。」
たっちゃんがコウさんに聞く。
「ちなみに何と何で悩んでるんすか?」
「西と七萬」
「ウソばっかり笑」
それはついさっきどちらも通っていた牌だった。
佐藤が割って入る。
「コウさん、俺に振れば安いよ」
「マジ?でもお前染五郎じゃん」
「大丈夫、大丈夫」
「まあ、親のスケベに刺さるよりましか」
コウさんはたっちゃんの現物、二筒を切った。
一瞬、佐藤は自身の手牌を触り沈黙。え、当たったの?それとも鳴くの?という雰囲気が場に流れ
「とうしや!」
と、佐藤は二筒をスルーした。
そして海底を僕が切り結局誰も上がれずに場は流れた。
たっちゃん、佐藤、コウさんがテンパイで各々手牌を倒した。
「あ!お前、やっとるやん!」
その刹那、コウさんが声をあげた。
それは、佐藤に対してだった。
佐藤の手牌は
1s444555666888p
スッタン夢見るみちる。
染五郎に見せかけての一索単騎。
引っ張ってきたら誰もがノータイムで落としていたであろう、たっちゃんがずっと前に切っていた現物。
やっとる。
あの二筒の小芝居はなんだったんだ。
その想いは皆いっしょだった。
コウさんがまくし立てる。
「もう怒ったわ。これからオープンリーチしかせんから」
そう言い放ち、始まった次局。
コウさんは嬉しそうに、普通にダブリーをかけた。
終
今日の飯は白日を思い出させる
時には誰かを
知らず知らずのうちに
傷つけてしまったり
失ったりして初めて
犯した罪を知る
戻れないよ、 昔のようには
煌めいて見えたとしても
明日へと歩き出さなきゃ
雪が降りしきろうとも
今の僕には
何ができるの?
何になれるの?
誰かのために生きるなら
正しいことばかり
言ってらんないよな
どこかの街で
また出逢えたら
僕の名前を
覚えていますか?
その頃にはきっと
春風が吹くだろう
真っ新に生まれ変わって
人生一から始めようが
へばりついて離れない
地続きの今を歩いているんだ
白日/King Gnu